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軽井沢のあの別荘

10月の頭に久しぶりに軽井沢へ行ってきました。

子供の頃は毎年、夏になると家族で東京から大移動し、軽井沢暮らしをおくっていました。

まだ東京からは遠い場所であったあの頃は、今のように観光客で賑わうこともなく、とても静かで、日本の学校の夏休みが始まる前の6月は、地元の人の暮らしを支える商店街のお店以外はほとんどがまだ開店していませんでした。

行きつけの八百屋さんではルバーブやブルーベリーを買い、母は毎週末のようにパイを作っていました。


幼少時代の思い出はもやもやしていますが一時期、聖パオロ教会の後ろにあった幼稚園にも通っていました。そのことから、地元の子供達とも仲良でき、よく遊んでいた記憶はあります。布団屋さんの子やパン屋さんの子、金物屋さん子など、商店街の子どもたちとの交流も。


母の小説やエッセイを読んでいると、軽井沢に別荘を持っていたと思われていたかもしれませんが、実は毎年3ヶ月間、両親の知り合いの貸別荘を借りていたのです。そのため、毎年違う別荘を転々と借りていた時期もありました。


6月上旬のインターナショナルスクールの終業式の翌日には家族で大移動。車の後ろに布団をぱんぱんに詰め、5〜6時間の長い移動が始まりました。当時はまだ高速が途中までしかなく、さらに最後の1時間ほどは碓氷峠のカーブをくねくねとしたカーブを曲がるごとに、軽井沢に近づいているわくわく感がありました。


高速1本で行けるのも便利になりましたが、あの交通の不便さもまた、軽井沢をより特別な場所にしていたような気もしなくはありません。


毎年同じ別荘を借りるようになったのは私が12歳の頃。旧軽井沢通りから歩いて数分の、テニスコートのすぐ裏にある、大きくて古い、赤色のお化け屋敷のような家でした。


そして現在はカフェ「涼の音」として知られ、夏には行列ができるほど人気スポットになったようです。家の歴史もそうですが、軽井沢では今は珍しくなった古い建物の独特な雰囲気、温かみのあるインテリアや涼しい庭でゆっくりお茶や食事をするのにはベストスポットなのでしょう。それに、このような昔の伝統的な軽井沢の別荘の中で過ごす機会もなかなかない、貴重な体験でもあります。


軽井沢へ行くと必ず元別荘、「涼の音」に立ち寄ります。カフェのオーナーさんとは、子供の頃の別荘の思い出、そしてオーナーさんがそこでカフェを経営しながら2階はお住まいにも使っている彼の思いを語り合ながら本当に別荘の歴史の深さを感じます。


2階のあのお部屋にいる、女の子のお化け、まだいるかしら?」なんて脅したりも。

そのお化けは妹、ナオミの部屋に住んでいたらしく、ナオミがまだ小さい頃はよくおしゃべりをしていたとか。あまり霊感が強くない私は「本当か?」と疑っていましたが、私より6年も若い、当時はまだ本当に幼かったナオミが当時そう言っていたのであれば本当のような気がします。


「ああ、お化け。いますよ」とオーナーさんから聞いた時には寒気を感じるよりも、この古い建物を守っている大切な存在なのではと思いました。


次々と建て替えられている古い別荘が多いなか、この別荘も老朽化し、危機を迎えた時期もありましたが今の持ち主さんの手により修復され、登録有形文化財としても認定されました。明治時代に宣教師によって建てられ、明治時代の総理大臣、松方正義の孫娘、ライシャワー駐日大使夫人でもあった松方春子さんが一時所有されていたこともあり、森瑤子もそこから数々の作品を生み出した、奥深い歴史のある別荘でもあります。


軽井沢では貴重な宝物として残ったのも、きっとあの女の子が守っているからだ、なんて半分笑いながら、でもどこか本気で信じている部分も。



懐かしい別荘。

もう我が家ではないのに、ついつい我が家にいるような気持ちでくつろいでしまいます。


家具もアートも当初のまま、カフェで大切に使われています。


リビングにあった軽井沢彫の古いテーブルもそのまま、ソファの前に。手で触ってみると、子供の頃、この掘り具合の手触りが好きで、よく撫でていたのを思い出します。2階も特別に見させてもらいました。階段の木の手すりが欠けている部分、当初からあった傷がまだそのままで、目だけではなく、体で覚えているような懐かしさ。両親の部屋の壁紙はそのまま。もう40年は変わっていないし、多分その前からもずっと同じ壁紙だったに違いないでしょう。母の机があった窓辺から外の庭を見下ろす姿もそっくりそのまま。ただ、今はテーブルがあり、わんちゃん連れのお客様がコーヒーを飲んで、ケーキを食べながら楽しそうに休日のひとときを満喫している姿が見えます。


この家で過ごした夏はたった6年でしたが、12歳から18歳までの貴重な青春時代でもあったからか、もっと長く、私にとっては深いゆかりのある場所です。自分の青春のあれこれだけではなく、家族と過ごした大切な場所。今でも、カフェに入ると窓辺のソファで本を読んでいる母が、顔を上げて「あら、おかえり」という姿が見えてきそうな気がします。


家を守っているお化けはあの女の子だけではないのかもしれませんね。


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